ヨーロッパへ向かう飛行機の機内
「おい士郎、あの『剣』だが名前を考えておけ。」
「名前ですか?」
そう言われとなりの橙子へ顔を向ける。
現在の士郎は普段着ではあるが目隠しをはずし、紅い目で注目されないようにサングラスをかけている。
「ああ、あの『剣』はおまえのイメージが重要なのだろう。ならば具体的な名称があった方がイメージがしやすいだろう。」
「そうね。それに説明のたびに『剣』とか言われても分かりづらいし。」
「そうだなぁ、いきなり言われてもぴんと来ないだろう。だからおまえにとって大事な物を考えてみろ。そう言った物から連想するのがいいだろ。」
「大事な物ですか、、、、。」
5分後
「あの〜、ガーディアン(守護者)ってダメですか?」
「何故だ?」
「その、『家族』を守りたいからです。」
「なるほどおまえは家族を守りたい、そしてあの『剣』はある意味おまえと同じ存在だ。ならばおまえはおまえの家族を守る、守護する者。故にガーディアンか。」
「ちょっとそのまんますぎたでしょうか。」
「別に人の名前と同じでそこに籠められている意味が当人にだけ分かればいいのよ。
それに言霊ってもんがあってね、言葉にはそれを実際に起こす力があるって考えなんだけど、姉さんも言ったとおりあの『剣』はあんたと同じもんなんだから。
それが一番じゃないの。」
「そう言ってくれると助かります。」









空港に着いた後、3人はまず地元のホテルで1泊し翌日『魔導元帥』の下へ向かうという手筈だった。
そのはずだった。
異変が起こったのは夕食をレストランで食べ終えてホテルに戻ろうというときだった。
「あれ?誰もいないんですがどうしたんですかねぇ?」
そう3人以外にも外食をしようと考える者はいくらでもいるはずだし、他の理由で外を出歩く人間がいてもおかしくない時間帯なのに誰もいないのである。
「姉さん、もしかして、、、。」
「おそらく死徒だな。我々には気付いてないがそれでもここまで気付かないほどの結界を張ったのだ。
中の上といったところだ。もう生きてる奴はほとんどいないな。」
「どうする?うざったいし、殺っておく?」
「いずれ教会の連中が来る。10分といったところか。」
「OK。士郎、見ておきなさい。これが世界の裏の更に裏よ。あんたは今後こんな世界に足を踏み入れるのよ。分かった?」
「分かりました。」
そう言って死徒を殺すために歩き出した二人を士郎は追いかけていく。

8分後
大半の死者は橙子と青子に滅ぼされた。
そして対峙しているのはこの街を死都にした、死徒であった。
「まさか貴様ら二人がいるとわな。さすがに驚いたぞ。」
「御託はいい。貴様には死んでもらう。」
「残り時間が後1分ちょいなんでね。」
「ふん甘く見られたものだいくら魔法使いと封印指定だろうと私は死徒だ。そう簡単には、、、、、」
「ああ、もううるさい。」
「黙れ、耳障りだ。」
言った瞬間二人によって死徒は消し炭にされた。
「さて荷物を取りに行ったらすぐに出よう。教会に見つかると面倒だ。」
「そうね。とっと生きましょう。士郎、行くわよ。」
しかし士郎からの返事はない。
士郎は頭を押さえていた。
「ちょっと、どうしたの。大丈夫?」
「はい、、、ただその死んだ人だ、、、その。」
この時二人の脳裏に士郎の地獄が思い出された。
「大丈夫か?」
「はい、何とか。ここにはもう居たくありません。さっきからなんかイライラしてきて。」
「そうだな急ごう。」
2分後3人はこの街から抜け出していた。









3人が町から出て10分後
埋葬機関から派遣されてきた二人は困っていた。
死都とかした街の報告を受けてきてみたら。すでに街には静寂しかなかったからだ。
ただ何者かが戦闘を行ったことは壁の壁面などから容易に想像がついた。
しかし問題は「誰が」である。
ここまでやれるような魔術師を二人は知らないからである。
彼らには魔法使いと封印指定がやったなど頭の片隅にもなかった。
結局二人は生存者を捜すだけとなり、報告書には何者かが「征圧」された死都を「征圧」したと書いたために機関長からなんの冗談だと叱責された。









翌日
3人はとある城の前に来ていた。
それは絵本などによくある、巨大で、在るだけで荘厳さえを感じさせた。
その名を『千年城』という。
城に入ってすぐのホールには一人の老人、『魔導元帥』と呼ばれるキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグがいた。
「久しぶりだな、蒼崎。」
「お久しぶりです、老師。」
「それにしても驚いたぞ。久しぶりに連絡があったかと思えば、わしに子供の面倒を見てくれとわな。そしておぬしにもな、蒼崎橙子。」
そう言って橙子に視線を向ける。
「初めましてと言うべきかな、魔導元帥。それと私は橙子と呼べ。そいつと間違われたらかなわん。」
「なるほどな。それで、その子供がおぬしが言っていた奴か。」
今度は視線を下に下げ、赤銅少し薄くした色の髪に紅い目隠しをした子供を見た。
しかし、当の士郎は心はここにあらずというかのように俯いていた。
「ちょっと士郎どうしたのよ?昨日のことがまだ気になってるの?」
「昨日何かあったのか?」
「私たちの滞在していた街が死徒におそわれたんです。」
「そう言えば、教会でそんなことがあったときいたが。そうかあれはお主らか。」
「ええまぁ。ほら、士郎どうしたのよ?」
そんな青子の心をよそに士郎はゼルレッチにこう聞いた。
「ここにもう一人誰かいませんか?」
「姫様のことを言っているのか?」
「姫様?いえ、女の人ではなく、、、ええと、、、27番目の死徒(ひと)?」
「コーバック・アルカトラスのことを言っているのか?」
「コーバック・アルカトラス?あいつは今はどこにいるのだかわしもようしらのだが、なぜおまえがそんなことを知っておる。」
「ちょっとここが気になったので思い出してみたら誰かいたので。まだよく思い出せないんですが。」
「なるほど。そう言えばおまえは歴史のすべてを記憶していたな。」
「おい、蒼崎。どういうことだちゃんとわしにも分かるように説明しろ。」
「そうだな。ちょうど良い。口で言うより見てもらった方が早いし納得するだろう。おい士郎、場所は分かるか?」
「一応分かりますが。」
「ではついて行くとしよう。」
「蒼崎どういうことだ。」
「士郎について行けば分かりますよ、老師。」









5分後
一同が士郎について行くと、そこは行き止まりだった。
「誰もいないじゃない。」
「いますよ。この壁の向こうに。それに声も聞こえますし。」
そう言って全員が耳を澄ますと、
「、、、お〜い、誰かいないのかぁ〜、、、」
そんな声が聞こえてきた。
「お主、コーバックか?」
ゼルレッチは半信半疑でそう聞いた。
「ゼルレッチか?早くここから出してくれ〜。」
「そうはいってものぉ、、、。」
いくらゼルレッチでも『悠久迷宮』からどうやって救い出すのか見当もつかない。
下手に捜索しに行っても自分が迷ってしまっては、ミイラ取りがミイラになってしまう。「あの〜『これ』って壊しちゃっていいですか?」
そんな士郎の言葉にゼルレッチは呆気にとられた。
「壊すと行ってもどうや、、、」
「いいわよ士郎責任は私がとるわ。」
「なるほど、ガーディアンを使うのか。好きにしろ問題ない。」
と、ゼルレッチの心配をよそに二人はなんでもないかのように答える。
「ちょっと待て、お主ら何を言っておる。それにコーバックがなんというか。」
「別にいいじゃないですか。本人が出たいって行ってるんです。」
「すいませ〜ん。これ壊しちゃってもいいですか〜?」
「助けてくれるならどうでもいい。」
「ほら本人もこう行ってますよ。」
「むっ、、、しかしだな、、、」
ゼルレッチ本気でどうすればいいのか考えていると、士郎はいつの間にかどこに持っていたのか刀身が1mほどの黒い両手剣を構えていた。
「えいっ。」
そんな気の抜けたかのような声とは裏腹に壁は見事に切断された。
「なっ!!」
「行きましょう。」
「そうね。」
「そうだな。」
一人放心したゼルレッチを残して3人はどんどん進んでいった。









一方壁の遙か向こうでは。
「、、、はぁ、、、あんなこと言ったが無理だろうな、、、」
その声はため息と共にしみじみつぶやいた。
「、、、それにしてもあれは誰だ。子供のような気がしたが。」
先ほど聞こえてきた、友であるゼルレッチではない声の人物について考えていた。
この城の真の主はまずありえない。それだけは確実だった。
幸い時間だけはたっぷりあった。
しかし思考を初めて3分でそれは終わる。
ズン、、、
「、、、ん?なんの音だ?」
妙な音が聞こえた。
ズン、、、
また聞こえたしかも先ほどより確実こちらに近いところで。
「おいおい、まさか!」
そして今度は目の前の壁が切断され崩れ落ちた先には男だか女だか分からない目隠しをした子供と青い髪と赤い髪の女性が二人、そして懐かしき友がいた。









「誰もいないじゃない。」
そう、たどり着いた先には扉とそこに掛かっている南京錠があるだけ。
「いえ、そこにいますよ。」
そう言って士郎は南京錠を指さす。
「あなたが『27番』さんですか?」
そう聞いた瞬間南京錠が光りそこには金髪の若い風貌の男が立っていた。
「『27番』じゃねぇ。おれは『コーバック・アルカトラス』だ。」
そう自分を指さし、男は自己紹介をした。
「久しぶりだな。ゼルレッチ。いったい何年ぶりだろな。」
「わしも忘れたわ。それにしてもまさかこんな所にいたとわな。」
「別に好きでいた訳じゃない。それより久しぶりに外の空気が吸いたいんだが。あっ、ちょっと待ってくれ。」
そう言ってコーバックは扉のの中にはいると本を大事そうに抱えて出てきた。
「これを忘れるところだった。すまない。案内を頼む。」
こうして予想外の人物を加えて5人は千年城に戻って行った。
「さて、そろそろその子供について教えてもらおうか。」
ホールに戻って開口一番にゼルレッチはそう言った。
「そうだな、俺としてもどうやって『悠久迷宮』をぶっ壊したのか気になるしな。
で、おまえ名前は?」
「俺は衛宮士郎です。」
「で、おまえさっきのはどうやったんだ?」
「それについては私が話そう。」
「おまえは誰だ?」
「私は蒼崎橙子だ。橙子でいい。今はこいつと一緒に士郎の保護者と言ったところかな。」
「どうしてそうなったんだ?」
「それも含めて話をしよう。」
そう言って橙子は士郎にあったいきさつを話した。
無論士郎の体の中にある物やガーディアン、生きた魔法になったことの経緯等に関しても。









「そう言うわけだが、、、大丈夫か?」
話し終えて橙子は2人を心配そうな目つきで見る。
その二人は話の内容に頭が痛くなりそうになり、そのあと士郎を信じられないかのような目つきで見た。
「それは本気で言っているのか?」
「だから先ほど士郎の好きにさせたのだ。百聞は一見にしかずだ。」
「なるほどなたしかに先ほどのことを考えれば嘘とも思えんしなぁ。」
「それでだ、どうやら士郎は家族を守りたいらしい。そしてそのために『魔法』を教えて欲しいのだと。」
「『魔術』ではないのか?」
「父親である切嗣さんが自分のことを魔法使いと言ったらしい。それに本人曰く『魔術も魔法も変わらない』だとさ。」
「おまえ本気で言っておるのか?」
コーバックが脅すような目つきで士郎を見る。
しかしのれんに腕押しかのように平然とした様子でこう答えた。
「何か問題があるんですか?」
「おまえが思ってるほど甘い道のりじゃないんだよ。」
「そうですね。ですがなれなくても俺は『魔法使い』を名乗りますよ。父さんの様に家族を守るんですから。」
さも「それがどうしたんですか」というかのような顔でコーバックを見返す士郎。
「はっはっはっは。なるほど面白い。大真面目にそんなことを言うとは気に入った。おまえの言うとおり『魔法』を教えてやろう。」
「俺も協力しよう。助けられた恩もあるしな。それに俺自身おまえのことは非常に興味深い。」
「改めまして、衛宮士郎です。よろしくお願いします。」
「とりあえず、一応一件落着だな。」
「そうね。なんか士郎に出会ってからかなり濃い時間を過ごした気がする。」
「私もだ。しかし本番はこれからだ。士郎自身がどんなことが出来るのか想像もつかん。」
「そうねぇ、それが一番の懸念事項よね。」
「おい士郎、いい加減顔ぐらい見せろ。」
「そうね。士郎、見してあげなさい。」
「わかりました。」
そういって目隠しをはずす士郎。
その双眸は橙子と青子が見たときと変わらない紅い目だった。
「蒼崎。これは?」
「分かりません。姉貴は強い光を見たのと体が魔法になったのが原因だと行ってますが。 ただ、士郎曰く別に問題はないらしいですけど。」
「あの〜そろそろいいですか?」
目とは反対に顔を青くした士郎がそう聞く。
「こいつはどうしたんだ?」
「わかりやすく言うと士郎は他人の顔を見るとトラウマが復活してな、それに耐えているんだ。私たちが初めて見たときはわずか1秒でトイレに駆け込んだんだ。わたしたちができるだけ耐えるように言ってからは顔を青くする程度済んだがな。」
「なるほどな。」
士郎についての話し合いが終わって、5分後
コーバックが口を開いた。
「ところでそろそろ飯が食いたいんだが。腹が減った。」
「そうだな。ちょうど良い時間じゃからの。修行はそのあとだ。」
「じゃ、士郎頼んだわよ。」
「分かりました。」
そう言ってコーバックの時に一緒に思い出した城のキッチンへ向かう。
「おい、蒼崎。士郎が作るのか?」
「ええ、少なくとも私たちよりはうまいですよ。」









結果から言えば士郎の料理は二人にも気に入られた。
そしてその日から士郎の修行の日々が始まった。








2週間後
士郎の魔術の修行は難航していた。
なぜなら基本の「強化」と、コーバックが「悠久迷宮」を再構築する際にそれを見ていた士郎が「悠久迷宮」の構造を言い当てたことから判明した「解析」以外はなんの魔術も出来なかったからだ。
これにはさすがに多くの知識を擁する3人は頭を悩ませた。
しかしそんな中、橙子だけはあることを考えていた。
「おい士郎、ガーディアンを出せ。形は普段おまえが使っている包丁だ。」
突然そんなことを言い出した橙子に士郎自身もよく分からなかったが言われたとうり、普段使っていた包丁を『イメージ』して出した。
「今度はそれを魔力で形成してみろ。」
「姉貴!?まさか!」
「黙っていろ。士郎、いいからやってみろ。」
そう言われて士郎は先ほどと同じ手順で今度は体に流れる魔力を手のひらに集め、先ほどイメージした包丁を「投影」した。
「やはりな。」
自分の予想があたったことに一人納得する橙子以外は、全員放心していた。
なぜなら彼らの中では投影ほど意味のない魔術はないと考えていた。
魔力で物体を生成しても、時間が経てば消えてしまうえ、外見だけで中身のない張りぼてだからだ。
「士郎それをよこせ。」
そう言って橙子に投影した包丁を渡す。
そしてそれをおもむろに指先に当て、少し動かす。
そうすると包丁の通ったあとをなぞるかのように傷跡ができ、血がにじみ始めていた。
当然青子たちもそれを見ており、先ほどより更に放心していた。
そして3人ともこうつぶやいた。
「「「最悪だ、、、」」」
そう投影は魔術で物体を形成する魔術。
しかしどんなことをしてもいずれは消える、しかも中身のない張りぼてのはずである。
しかし士郎は初めてなのに投影を成功させた。
しかも中身のあるちゃんとした包丁(物体)を。
「あの〜結局成功したんですか?」
「士郎、確かに投影は成功したわ。でもね決して外の魔術師にはそれをばらしちゃダメよ。魔術協会に知られたら、姉貴みたいに封印指定にされてホルマリン漬けにされるから。」
「分かりました。」
士郎は青子の言葉を肝に銘じた。
後に結界魔術も同じ要領で使用出来ることも判明した。
そちらはコーバックが受け持つことになったのは言うまでもない。
この日、士郎は「魔法使い」としての歩みを始めた。








あとがき
どうもNSZ THRです。
とりあえずこれで1章は終わりです。
次から少々騒がしくなります。
コーバックが関西弁でないのは私が関東の者だからです。
そこら辺はご勘弁を。